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横河のリーダーXトーク

事務所100周年から
20年を経て、
劇的に変化した
設計ツールと人間

横河建築設計事務所100周年の際にはいわゆる若手だった世代が、120周年を迎えたいま、各部門のリーダーとなりつつある。この20年で、PCは共用から一人一台へ、図面は手描きからCADへと変遷、仕事環境は劇的な進化をとげてきた。今回はこの先の設計ツールを見通しつつ、事務所を構成してきた横河の人間像を振り返り、自らの事務所の内側についてざっくばらんに語り合う。

Talk Member

  • 山田 高史

    技術室 構造設計部 部長

  • 熊谷 智則

    経営管理室 部長

  • 藁品 亨

    設計室 建築設計部 次長

  • 朝井 典之

    設計室 建築設計部 次長

Theme 01

熊谷 20年前の100周年記念のとき、朝井が壇上であいさつしたのを覚えているよ。あのころと比べて仕事の環境は劇的に変わりましたね。

朝井 ちょうど僕らが入ったとき、Auto CADに移行したんですよね。

藁品 それまでは矩計図にしても全部一から手描きが当たり前だった。図面リストすら手描きでしたよ。この20年で最も大きな変化と言えば、CADによって、確実に合理化が図れたことだろう。20年前は多大な残業をして設計を行うことが当たり前だったけれど、今ではまずありえない。

朝井 働き方改革もあって20年前と比べて、より限られた時間の中で迅速にやらなければいけないのはけっこう大変なことですよね。

山田 合理化という点では、構造計算のソフトというのは以前は全部テキスト入力でした。傾斜軸のある建物で、軸が交差する接点座標もあらかじめ計算し、頭の中で全部、構造モデルをつくってから行っていた。そして解析するとこういう応力になる、ということを予想しながら設計していたんです。でも今は、入力インターフェイスが格段に進化して、複雑なモデルも簡単に入力できるようになった。構造計算結果が出るのは早いけれども、出たものをそのまま鵜呑みにしてしまうという側面はある。

藁品 手描きは、どう納まっているだろうかと考えイメージしながら描くけれど、CADは描けてしまう。手描きだとはじめに描くときからちょっとした山留めにしても、仮設がどうなって、ここはどうしよう…と考えながら描いていく。それは経験として積み重なっているとは自分でも思うけれど、今は絶対的に速いツールを使うことが当たり前の時代だと思う。

熊谷 スピード感がすごいですね。それがお客さんにも当たり前だと思われてしまう大変さがある。

山田 昔は多少のゆるさがあったから、少々の失敗なら現場で帳尻合わせということもあって、それがとてもいい経験になった。今は申請の手続きも膨大だし、社内のチェックも厳しく、常に失敗しないようにという目で見てしまう。構造の部署でいうとパソコンの性能向上に伴い、処理できる情報量が多くなり、構造計算スピードが高速化していることから、トライアル&エラーがたくさんできる。そこは恩恵にあずかっていると言えるのかもしれない。

藁品 もう、そういう時代になって、いかに対応するかだと思う。その上で新しい知識を取り入れて、批判されることを恐れずに、先見性と設計者として蓄積されたものをもって、オリジナリティのある新しいデザインを提案していく。それが設計事務所が生き残っていける道なのではないかと思う。

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Theme 02

朝井 合理化、スピード感といった時代の要請のなかで、ツールをうまく使うことはもちろん、この先はもっとAIを取り込んでいくことが重要視されていくだろうと思っています。設計そのものも、AIを有効に使ったほうがいいものを早くつくれるようになるだろうけれど、そうさせるのは人間。お客さんとのコミュニケーションはとても繊細で、我々人間にしかできないのではないでしょうか。

山田 お客さんの秘めたる思いはAIでは引き出せないですよね。AIは、膨大で複雑なものを処理するけれど、そもそもインプットした情報によって成り立つもの。そのインプットする情報はあくまで人間が与えるものだという認識でいます。人間がインプットし、AI がアウトプットしたものが、よいかどうかの判断や評価をするのも、我々人間が行っているからね。この先施工もロボットにより全自動化されていけば多少変わるかもしれないけれども、たとえば監理業務で押さえるべきことなどは20年前と変わりがないし、改修などの場合に図面通りに施工できていないなんてことも往々にしてあって、そういったときの対処もAIには難しいことだと思います。

藁品 合理化・効率化する部分、限られた時間の中での作業、平たく言うと我々人間が休んでいる、寝ている間にAI がやっておいてくれることによる時間短縮は、実にありがたいですよね。合理化、時間短縮はAI のおかげ、オリジナリティの部分は人間が力を発揮するべきところということか。

山田 人間のこの先の未来は「AIを使ったノウハウの蓄積」というところに集約されるのではないかと思っています。この場合はうまくいった、この場合はうまくいかないというのはAIによって導き出されるけれども、なぜそうなのかを人間がわかっている必要がある。僕らの時代はCADへの移行、その次がBIM、その先はBIMプラスAIになっていくのだろうけれど、そのときどきで視座をもって大局を見るのも、最終的な判断の責任をとるのも人間だと思う。

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Theme 03

藁品 今後AIと共存しながら、我々横河のオリジナリティを出していくことが課題だとすれば、大手との差別化を図るためにも個性をもっと出したいし、アピールしていきたい。

朝井 効率化、合理化をツールに頼って時短になった分、じっくりデザインを考える時間に充てられるかというと疑問が残る。実際に自分がそういう時間を確保して、オリジナリティを高める努力をしないといけない。

山田 設計事務所としての教育でも、各々の人間の個性を伸ばすような教育をしていきたいですね。

熊谷 余談だけれど、私がこの会社に入ってよかったなと思うことの一つに、「みんな人柄がいいな」ということがある。コロナ禍で今はできないけれど、うちは部活動がさかんで、サッカー、野球、スキー、登山、ゴルフ、バスケット、卓球もやっていた。野球では他社チームと試合をしていると、審判の人などに「横河さんってみんな心底楽しそうにプレーしますね」って言われたことが何度かあって。仕事で同僚のことを「ほんとうに仕事が好きなんだな」ってふと感じることも少なくない。そういう、人が感じ、自分も感じる人柄みたいなものというのは、横河の魅力につながることでもあるのでは。

藁品 意匠の立場から見ると、構造・機械・電気すべての部署で、うちには困ったなと思うと助けてくれる人がたくさんいる。担当者に聞かなくても、誰かに相談できるのは心強いし、うちのいいところ、魅力の一つですね。

朝井 お客さんと打合せしていても「横河さんって真面目だね」とか「本当によく話を聞いてくれるよね」と言われることがあります。そういう人柄とか、すぐ相談できるような社の風土が、120年という歴史につながってきたのかもしれない。だとすると、この先もつなげていかなくてはいけないし、つなげていけるのではと思います。

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Member Profile

  • 人間の成長には「失敗」も必要

    「テクノロジーの進化が劇的で、シミュレーションができる、レスポンスが早いのが当たり前になる一方で、ニュアンスの違い、見えない不具合を見つけづらくなっている。それと同時に失敗できない息苦しさのようなものを今の若い世代は抱えているのではないか。いろいろ考えてそれでも失敗する経験が、人間の成長には必要なのではないか」

    山田 高史

    技術室 構造設計部 部長

  • 「考える」と「調べる」

    「今の時代、設計に限らずものごとに関して考えるということをしなくなっている傾向があるように思う。考える前に調べてしまい、それで答えがパッと出れば終わり、というような。個性のある人間が考えに考えて、建築物を生み出すべきではないか」

    熊谷 智則

    経営管理室 部長

  • AIと共存しながら
    横河のオリジナリティを

    「手描きのよさは、図面一つひとつのイマジネーション、スケール感を身体的に得られること。それがCADになり合理化が進むことで、手描きの身体性はなくなるかもしれないが、そのデメリットを補うAI 化も今後生まれてくるはずだ。そんなAIと共存しながら横河のオリジナリティを獲得していくことが課題になる」

    藁品 亨

    設計室 建築設計部 次長

  • AIの強み、人間の強み

    「設計のプロセスそのものが昔と今とでは変化した。ツールによって導き出されたものが建物のかたちになる時代で、手描きではできないかたちもつくれたりすること、膨大なシミュレーションを一瞬でしてくれることはAIの強み。しかし、それを精査するのはあくまで人間であるべきだ」

    朝井 典之

    設計室 建築設計部 次長

写真:小寺 惠