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低温物流施設の過去・現在・未来について

横河建築設計事務所は第二次大戦直後から製氷工場等を皮切りに、70年以上にわたってニチレイグループの低温物流施設を数多く手がけてきた。発注者と設計担当者という関係で協働し、この分野の建築設計をリードしてきた井藤社長と早川部長に、低温物流施設の過去・現在・未来について大いに語っていただいた。

※ 本取材の後、2023 年1月16日に井藤氏が逝去されました。本稿は両社の関係者のご了解を得て、哀悼の気持ちを込めて掲載させていただくものです。生前の氏の活躍を偲ぶとともに、ご冥福をお祈りいたします。

Talk Member

  • 井藤 勉

    ニチレイ・ロジスティクスエンジニアリング
    代表取締役社長

  • 早川 紀元

    横河建築設計事務所 設計室
    建築第3設計部長

Theme 01

井藤 私は1986 年にニチレイに入社したのですが、当時はそれこそ年間に8~10の新設プロジェクトを横河さんと一緒に動かしていたという旺盛な時期でした。

早川 ニチレイ・ロジスティクスエンジニアリングは元々、ニチレイ本体の技術部という位置づけでしたね。そこで受注された物件を技術的・運用的に立ち上げるにあたって、設計事務所と施工者を選定されていました。

井藤 僕は技術部にいて、社内の管理部門から「この地域にこんな冷蔵倉庫が欲しい」というオファーが届くと、どういうものを建てるのかというラフなレイアウトをつくっていました。方針がまとまったら横河さんに、しっかり建物として施工会社にわたせるような設計をお願いするというやりとりですね。早川さんには設計の総まとめ役のような立場から見ていただいてきました。

早川 ラフと言いつつ、ニチレイさんの技術部には冷蔵倉庫のさまざまなノウハウがあって、技術指針がしっかり確立されており、レールに乗ったようなかたちで設計を進めることができました。

井藤 そんなに単純じゃないと思うよ。確かに指針はあるけれど、それを各地の具体的な案件にどう落とし込むかというのは、設計事務所でなければできないことですから。おそらくニチレイと横河、それぞれの窓口として一番接してきたのが我々二人なんじゃないかな。
1980 年代後半、冷蔵倉庫に求められたのは、どれだけたくさんのものを保管できるかという機能でした。多少の使い勝手や荷物の取り回しのよさよりも、いかに大量に保管できるかということが優先された時代があったわけです。
現在、冷蔵商品については、生産してから一般のお客様にお届けするまで低温を保つ「コールドチェーン」という仕組みが確立されているわけですが、当初の冷蔵倉庫は保管場所以外では常温で、そういう意識がまだなかったんですね。
その後、1990 年ごろから冷蔵倉庫全体に品質管理が求められるようになってきて、荷物の出し入れをするスペースでも温度を管理しようということになり、設備も変わってきたわけです。今に至っては、どれだけ荷物を細分化して消費者にお届けできるかという、取り回しのよさも求められています。

早川 昔の荷役では決められたパレットの寸法があって、それを冷蔵倉庫に効率よく積んでいくことが前提で、柱の隙間もないようにギッチリ詰まるように設計するというのが命題だったんです。「コールドチェーン」を意識するようになってからは、仕分けのしやすさが求められるようになりました。
マテハン(マテリアルハンドリング)の多様化にも対応しなければなりませんし、冷蔵倉庫全体を冷たくして、トラックの接車からなにから、常にコールドの状態を保たなければならないということがあります。中でも結露はいつも現場からのクレームの元になっているので、冷蔵倉庫の運用では一番配慮しなければならない点ですね。
製品に水滴が一つでも垂れると売り物にならないということがあり、冷蔵倉庫に求められる性能は非常に高いと感じています。

井藤 元々は商品の原料を運んでいたのが、今では皆さんが手に取るような冷凍・冷蔵商品が荷物の主体になっており、冷蔵倉庫内の保管効率よりも、いかに品質を保ち、効率的にお届けできるか、という風に変わってきたわけです。それに伴って防湿防熱材なども試行錯誤しながら使ってきました。

早川 決められた基準数値以上の防湿防熱を組み合わせながら使っていくのですが、より結露が発生しないものを選んでいますね。こういうときにはこうした方がいい、という材料設計のノウハウを蓄積してきました。

井藤 そこではやはり、冷蔵倉庫をお使いになっている方からの声が大事ですね。いかに完璧に近い施設をつくったところで、それを使用する方に適切に運用していただけるかどうかがカギになるということです。たとえば使う方が倉庫を開けっ放しにしていたら、僕らの設計にはそぐわない結果になってしまいます。ですから、どれほどしっかり使っていただけるか、使いやすいかたちでご提供できているか、というところが難しいわけです。
僕らは竣工後もずっと運用している様子を見ていられるわけでもなく、次のプロジェクトに走らなきゃいけない。だから、こちらの意図がうまく伝わらないまま運用されてしまわれないように、わかりやすいものをつくっていくということだよね。

早川 そういった流れの中で重要になってきたのが、運用面でのデジタル化/自動化です。というのは、‒25℃の中での荷役は人体にとって非常に苦痛なわけです。ニチレイさんは今、過酷な条件下での荷役の自動化について、業界のトップランナーになっておられます。

井藤 “たくさん積める施設”から“ 仕分けしてお届けするのに適切な施設” へと変わってきて、それからどうするのか。早川さんが言うように、冷蔵倉庫内は働く環境ではないというのは誰もが知っていることで、今までは職人さんが品物を納めていたところを、どれだけデジタル化し、自動化していけるかが今、一番大きな課題です。
昔は手書きで「ハムはA-5」といった風に荷物に番地を付けていたわけですが、それをできるだけデジタル化して、次の場所に荷物を動かすためにバーコードをどのように活用していけるのか、そんな流れで進んでいるところだと思います。

横河建築設計事務所はこれまでに約80件ものニチレイグループの施設を手がけてきた。左からニチレイ仙台南物流サービスセンター( 2001)、ロジスティクス・ネットワーク杉戸物流センター( 2005)、キョクレイ山下物流センター(2010)

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Theme 02

井藤 その上で、これからの物流施設を語る上で欠かせないキーワードとして、設計者に求められるキーワードはずばり「環境」です。環境に配慮した設計をするか否かで、施設の環境負荷が全然違ってくる。そこが僕らにできることなのかと思います。

早川 とくに最近は電気代が高騰してきて、同じ容量を冷やすのに2021・22 年比で1. 5 倍、2021・23 年比でいうと倍になってるんです。
今、ニチレイを主体にして、保管料の見直しに取り組んでいただいています。ニチレイが頑張らないと、他の会社の賃料が上がらないということです。

井藤 電気代の高騰にいかに対抗できるか、環境負荷をどれほど減らしていけるのかは、以前からエンジニアとしての僕らの大きな課題の一つです。照明のLED 化はもちろん、建築材料の選定にもこだわりますし、太陽光利用を今まで以上に推進していくだけでなく、それ以外の自然由来の熱源をどう取り入れていけるのか。もしかしたら地熱かもしれませんし、あらゆることを取り入れて、環境に対するパーフェクトな建物をつくりたい。冷蔵倉庫では使用電力の85% が物を冷やすために使われているので、ここの低減をいかに図っていくかというところを突き詰めるのが、これからの低温物流施設なのだと思います。ニチレイ・ロジ社では自然にやさしい冷媒を用いて、電力料=カーボンの削減、オゾン層破壊への対策という意味で、今後15年ぐらいで相当な転換を図ろうという取り組みを行っています。
また、環境に関わる運用データをDX化するというのは有効ですね。今、倉庫がどういう状態で運用されているのかということをデータとして蓄積して、最適な運転方法を探ったり、地域間での環境負荷の差を解消していくのに活用したり。機械や設備が壊れないように、予防保全につなげていくということもできますね。

早川 建築の環境対策について国土交通省がZEBという指標を出していますが、冷蔵倉庫は対象外なんです。事務所ビルや病院、学校等だけでなく、我々も自然冷媒や太陽光発電を積極的に活用していて、すごく環境に貢献しているんだと言いたいのですが。

井藤 この分野はやっぱりニッチなんだろうね。冷蔵倉庫を起点にして、なにかが広がるという制度になっていないんです。その部分が整っていけば、低温物流施設発の環境施策が出てくるかもしれないですね。

早川 おそらく私どもは日本で最も多く、低温物流施設に取り組んできた設計事務所の一つだと思いますが、環境施策にとどまらず、新しい技術を投入した多機能な冷蔵倉庫を提案して、お客様にとって使いやすくて、よりよいものをつくっていきたいですね。「ああ、いいものできたな」とおっしゃっていただけるのが、設計者として一番うれしいお言葉ですね。

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Theme 03

井藤 なんとなく、こんなことをしたいというものを、しっかりかたちにしてあげるというのが僕らの仕事なんだろうなと思いますね。

早川 当社の社是に「誠実であれ、良いものをつくれ」という言葉があるのですが、所員が設計に迷ったときは、お客様に対してどちらが誠実なのか、ということを冷静に考えてもらって、よりよい答えを採用していってもらいたいんです。それはユーザーが短期的に得をするかどうか、といった狭い視野ではなくて、将来を見据えて判断していくということです。そうすればお客様の信頼も得られるし、横河として何十年か後にその姿勢が評価されると思っています。これからも大きな視野をもって技術提案をしていきたいですね。

(東京・水道橋のニチレイ・ロジスティクスエンジニアリング本社にて、2022年12月22日取材)

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Member Profile

  • 井藤 勉

    ニチレイ・ロジスティクスエンジニアリング
    代表取締役社長

  • 早川 紀元

    横河建築設計事務所 設計室
    建築第3設計部長

写真:小寺 惠

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