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寄稿文

すべての人に愛され続ける
医療環境を

横河の医療のいままで×これから

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  • 和田 雅彦

    横河建築設計事務所 設計室
    建築第1設計部長

Theme 01

当社の医療施設のスタートラインは、1908(明治41)年12 月に竣工した三井慈善病院であったとされている。また、戦後間もなく全焼した松山赤十字病院の再建を行ったことから日本赤十字社とのつながりもはじまり、以降、数多くの赤十字病院の設計監理を手がけてきた。この日赤病院の設計で得た経験をもとに、今日に至るまで全国各地の官民の医療施設の設計に携わり、600を超える設計実績を築いてきた。
その代表的な作品は、病院建築賞(現医療福祉建築賞)を受賞した東京都立大塚病院や東京都立多摩南部地域病院をはじめ、慈恵大学医学部附属病院、そして国のがん医療の中枢を担う国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)が挙げられる。この国立がんセンター中央病院の経験は、次の静岡県立静岡がんセンターへと生かされていった。

現在、高齢化が急速に進む中、地域全体で高齢者を支え合っていく病院をはじめとした社会インフラの整備が急務となっている。一方で人口減少に伴いインフラ整備にかけられる財源には限りがあり、解決策の一つとして「医療を中心としたまちづくり」が問われている。高齢者が自力で移動できる適切なエリア内に衣食住を賄える施設が整備され、高齢者福祉施設がサポートし、その中心に病院がある、そんなまちづくりの未来がすぐそこまで来ている。

現在、国は「税と社会保障の一体改革」に向けて医療提供体制を抜本的に見直そうとしている。その結果、病院の統廃合に加え、機能分担、医療連携が進められ、こうした医療ニーズの変化に合わせ、施設そのものも柔軟に対応していくことを迫られている。また「持続可能な社会の実現」に向けて、これまでのスクラップアンドビルドの時代から、より長く快適に過ごすことに配慮したフレキシビリティの高い施設が求められている。

2005年の京都議定書目標達成計画の閣議決定を受け、地球環境の向上とそこに生きる人間の健康維持をめざし、病院を中心とした医療分野において、2006年度を基準年度とし、2012年度までのCO2削減数値目標を含む「病院における地球温暖化対策自主行動計画」が日本医師会を中心として策定されている。また国は2021年4月に、「2050年カーボンニュートラルに向けた目標として、2030年度において温室効果ガス46% 削減(2013年度比)をめざすこと、さらに50%削減の高みに向けて挑戦を続けること」を表明した。

国立がん研究センター中央病院
東京都立多摩南部地域病院
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Theme 02

総合病院国保旭中央病院

今後、地域医療を支える医療施設は、これまで以上に地域との連携強化が求められ、「地域共生社会の実現」において重要な存在になる。一例として総合病院国保旭中央病院と旭市、民間事業者であるイオンは、それぞれの資源を有効に活用した協働による活動を推進し、緊密に連携しながら、地域の一層の活性化、市民サービスの向上を目的とする連携協定書を締結した。2023年には隣接地に特別養護老人ホームを開設するほか、高齢者住宅や移住者住宅などの開発も計画しており、継続的にまちづくりを進めている。

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Theme 03

1980 年代までの病院建築には、移転新築を前提とした計画が多くあったが、現在ではサステナビリティの観点や建替え時のコスト負担の大きさなどから、建物の長寿命化が求められている。

将来の増築、建替えを見込んだ配置計画

配置計画においては、あらかじめ将来の増築、改築を見込んだ計画とすることが重要となる。建物内にはホスピタルストリートなどの主動線軸を設けることで、わかりやすい計画となる。また、その軸を延伸できる計画とすることで、将来の拡張性を確保することができる。

診療機能変更の対応

将来の拡張が見込まれる放射線部門などは、将来の増築スペースをあらかじめ建物内外に確保した計画としておく必要がある。
また、間仕切壁は改修が容易な乾式壁を使い、診療機能の変化に合わせて間取りを変更できるようにすることで、将来改修しやすい計画となる。さらに用途変更等が生じた際に、診療を止めることなく工事を行うことのできるよう、電気や給排水のゾーニングの明確化、ルートの複数化等を行う必要がある。柱スパンを広く取ること、改修時に下階の運用を止めないように部門配置するなど、あらかじめ将来を見据えた計画が重要となる。

静岡県立総合病院では県民医療の「今」と「未来」を支える新たな医療拠点「先端医学棟」が建設された。「今」、病院が抱える大きな課題を解消するために、手術部、放射線治療部門の再整備が行われ、念願であった既存病院からの大幅拡張および高機能化が実現された。そして「未来」の県民医療を支える取り組みとして、医療スタッフの育成を担う教育研修部および臨床試験・疫学研究を行うリサーチサポートセンターを合わせて整備している。

「先端医学棟」の完成後には、既設本館の移転跡地を利用した耐震補強工事、および医療機能強化を図る改修工事を行なった。エントランスは受付等の内装改修も行い、リニューアル後の新しい病院のイメージを担っている。また、リニューアル工事完了後の現在も、新たな病棟改修工事に取り組んでおり、常に変化し続ける「息の長い施設」となっている。

県立総合病院先端医学棟(外観)
県立総合病院先端医学棟(屋内)
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Theme 04

近年の医療施設において、基本的な病院機能の整備だけでなく、患者さんの快適性、スタッフの働きやすさ等のアメニティの向上に配慮した事例が増えている。しかし、都市のカーボンニュートラル化に向け、都市、地域レベルで人と自然との共生を考えた環境建築を意識している医療施設はまだ少ないだろう。

地球環境保全への積極的な取り組みが世界的に求められている現在、いかに持続可能な施設を実現するかが重要であり、機能、性能、環境を追求しつつ、「自然環境への配慮」「人への配慮」「将来変化への配慮」に対応した空間をどのように具現化していくかが重要となる。

自然エネルギーや再生可能なエネルギーを積極的に利用した環境にやさしいエネルギー計画を行うことや、地域と調和し、すべての利用者が快適にすごせる環境を整備することが肝要となる。

静岡県立静岡がんセンター
那須赤十字病院
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Theme 05

病棟計画では初期の片廊下、中廊下という古典的なレイアウトを脱し、コンパクトな複廊下型( I 型)とそのバリエーション( L型、H型、△型、□型)が長らく主流となっていた。そうした中で、アメニティへの配慮へのインセンティブとして、療養環境加算が創設され、多床室は6 床室から4 床室へと移行した。さらに窓側ベッドと廊下側ベッドの環境の差を少なくした、岩手県立磐井病院のような各ベッドに窓をもつ個室的4 床室が一時は多く採用された。

現在の病棟

最も大きな変化をもたらしたのが個室率の向上であり、問題となってきたのが平面的に外周の周長が多く必要となることである。そうした中で計画されたのが6ウイング構成の静岡県立静岡がんセンターである。

この静岡がんセンターのコンセプトは、その他多くの病院設計で得られた経験を加えながら引き継がれ、急性期病棟計画の基本コンセプトとして確立された。

「多翼型」平面の病棟計画では、個々の敷地条件や病床数、個室率を加味し、4ウイング、6ウイング、8ウイングといったバリエーションが生まれた。多翼型平面のメリットの一つは、ウイング単位でゾーンを明確に形成でき、総合病院国保旭中央病院のように感染病室や無菌病室など特殊な病室を機能的に配置できることである。

これからの病棟

急性期病院では、ますます在院日数の短縮化が進む一方で、入院患者の重症度が高くなり「病棟全体が事実上のHCUである」と言われることがある。この課題に対応するため、羽生病院では360度見わたせる看護しやすい「アラウンドビュー病棟」として整備された。

病棟は1 看護60 床を30 床ずつ二つの小ユニットに分けて配置。ユニットの中央には360 度見わたせるフルオープンのスタッフステーションを設け、それを取り囲むように病室を配置している。各病室の廊下側の壁にはガラス窓を設けることで、スタッフステーションから常に患者さんの様子を容易にうかがえる計画となっている。こうした「アラウンドビュー病棟」がこれからの病棟形態の主流の一つになるのではないかと考えている。

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Theme 06

羽生総合病院

医療施設は人々が生活する上で必要不可欠なものであり、都市や社会の主要施設として、「時代のニーズに合わせて変化していく建築」であるべきである。この先の未来に向けて「居心地の良い空間づくり」を行うとともに「在宅復帰を目指す場としての空間づくり」を念頭に、「利用するすべての人に愛され続ける医療環境」を提供していきたい。

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創立120周年を機に、医療・教育・物流の3つの分野において横河建築設計事務所の
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