PROJECT STORY 02
ヒトと地域に寄り添う新たな物流センター
沼尻産業株式会社 つくばゲートウェイ
沼尻産業株式会社は茨城県つくば市に拠点を置き、包括的な物流アウトソーシングの提供や情報システムの構築など、より付加価値の高い総合的物流ソリューションを提供する県内屈指の企業です。2015年夏に本プロジェクトの計画が始まり、お施主様の事業スキームによりそい検討を重ねていきました。2019年4月、つくばゲートウェイはお客様の社運を掛けたビッグプロジェクトとして動き出しました。
01_システム建築と在来鉄骨を組み合わせた「大容量の空間×高い機動力を持つ空間」の実現
大手飲料メーカーの専用センターとなる本施設の計画にあたり、首都圏エリアの物流ネットワークの中心的役割を担い、飲料を扱う拠点として2つの空間的ニーズがありました。「豊富な在庫収容に対応できる大容量の空間」と、「効率の良い出荷を実現する機動力重視の空間」が求められました。
高い機動力を持つ空間を実現するためには、柱を極力少なくし大スパンによる架構が必要でした。そこで、平屋建て×大スパンという条件からシステム建築の採用を提案しました。横河グループの株式会社横河システム建築と協業を行い、入出庫動線となる梁方向を大スパンの架構とし、運用への影響の少ない桁方向にブレースを設ける計画とすることで、約24m×48mの無柱空間を実現しました。加えて、庇受けの鉄骨柱をコラム柱とすることで、出幅10m、高さ5mの大庇を実現しています。
02_物流拠点を支えるオフィス空間 -モノだけでなく、ヒトも大切にする-
物流は社会的なインフラを支えるものであり、エッセンシャルワーカーであるという考えから、「これまでより少しでも良い環境で働ける場を提供したい」という課題がありました。働く人に必要な室を計画するのではなく、1日の働き方や行為に着目し、個々の意見を生かした場の提案を心がけるようにしました。ヒアリングの中で、「以前は屋外のパレットを重ねてその上で寝転んで思いっきり休憩していた」などの具体的な体験談も伺いました。物流現場で求められる休憩室は、単なる休憩室ではなく、カウンター席やテーブル席、リラックスできるクッションスペース、寝転がる場など自由に過ごすことのできる空間をつくることが必要だと考えながら計画しました。その他、シャワー室やパウダーコーナーや谷田部ラウンジなどを設け、働く方々が心地よく、また豊かなコミュニティを育むよりよい環境を実現しています。
03_この場所ならではの建築 -地域性をどうもたらすか-
計画地であるつくば市谷田部には、かつて「谷田部に過ぎたるもの三つあり」と言われていたものがありました。その中の一つが「不動並木」という美しい松並木です。この不動並木が地域性の手がかりとなると考えました。
企業ブランドを表現しつつ、地域固有の要素をデザインとして盛り込むことで、つくばゲートウェイが利用者の記憶に残るようなストーリーを描きました。
保管庫の外観は、これまでのお客様の倉庫と同様に、沼尻産業ブランドを表現したシルバー、事務所棟はブラック系を採用することで施設の構成が明確となるようにしました。
事務所棟の外観では、縦を基調とした外壁、縦スリット窓として、松並木を想起させるデザインとしました。
事務所棟では「路地」として捉えた2層吹抜けの空間を中心として、事務所、保管庫、広場を配置した平面計画とし、路地にはハイサイドライトや坪庭を設けることで、空間に光や風が通り抜ける空間となっています。ハイサイドライトのスタディを重ねることで、曲面のデザインに辿り着き、松並木に入る木漏れ日のように柔らかな光が降り注ぐ空間を実現しました。
04_メモリアルタイルワークショップ -関係者の想いをかたちに-
本プロジェクトに関係する人を集めて「なにか」を記念に残したいというリクエストがありました。関係者全員による集合写真なども意見としてありましたが、「地域や建築が関係者の記憶に残る」ような仕掛けを提案したいと強く思いました。そこで「参加型の企画」と「その場所に残るもの」をかけ合わせることで、ニーズに答えようと考えました。
関係者ひとりひとりが、「個人、仲間、地域、未来」の4つのテーマを表現する色を1枚のタイルに塗り、それらの集合体を一枚の絵画のように見立て、建物内部にデザインするアイディアに辿り着きました。特に「地域」は沼尻産業の強みであり、大切にしている要素でした。
製作では長いひとつながりのテーブルで、関係者が集える参加型の企画を提案し「LONGTABLE WORKSHOP」と名前をつけました。
さらに、この場所(地域)が記憶に残るように工事途中の現場にてタイルに色を塗るワークショップを行いました。
設計者や施工者だけでなく、お客様やご家族、銀行、行政、地権者など、すべての人が現場や地域を体験し、自らが作成したものが建築に残り続けるという今までにない経験をすることができました。みんなの想いがかたちになった瞬間でした。
05_6年の集大成の完成 -これからの地域の未来へ-
2021年3月、企画提案から6年を経てつくばゲートウェイは完成しました。
関係者の笑顔をともに落成式が行われました。そこにはメモリアルタイルを前に、自分のタイルを探す人が見られました。
事務所棟では「物流倉庫の事務所には見えない!」と皆が嬉しい声を上げていました。
これから倉庫にモノが入り、多くのヒトが使って行く中で、個々の居場所となるように計画した空間が、どのように使われるのかがとても楽しみです。つくばゲートウェイを起点に、つくばという地域によりよい関係の広がりを見せてくれることを期待しています。